2026年度「キャリアアップ助成金」3つの変更点:正社員化で損しないための実務ポイント
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目次
この記事でわかること
2026年度キャリアアップ助成金の3つの主要変更点
• 正社員化で最大80万円を確実に受給するための要件
• 申請前に準備すべき書類と期限
• 「もらえない」を防ぐための実務チェックリスト
はじめに:2026年度は「賃上げ」と「情報開示」がキーワード
「パートさんを正社員にしたから、助成金がもらえるはず」——そんな認識のまま進めて、後から「要件を満たしていない」と不支給になるケースが後を絶ちません。
2026年度(令和8年度)のキャリアアップ助成金は、「情報開示加算の新設」「賃上げ3%要件の継続」「賃金規定等改定コースの段階的支援」という3つの大きな変更があります。国は単なる正社員化ではなく、実質的な処遇改善を伴う転換を重視する方向にシフトしており、助成金の要件も厳格化・複雑化しています。
この記事では、社労士の視点から、2026年度の変更点と「損をしないための実務ポイント」をわかりやすく解説します。
キャリアアップ助成金とは?
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者(有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者)を正社員化や処遇改善した事業主に対して国が支給する助成金です。
2026年度の予算は554億円(正社員化コース・賃金規定等改定コース合計)と、依然として高水準の予算が確保されており、国が非正規雇用労働者の処遇改善を強力に後押ししていることがわかります。
出典:厚生労働省『令和8年度予算案の概要(雇用環境・均等局)』(2026年1月20日)
2026年度の3つの変更点
【変更点1】情報開示加算の新設(20万円/事業所)
非正規雇用労働者の雇用状況を開示した企業には、1事業所あたり20万円(中小企業)が追加で受給できます。
■情報開示加算とは?
情報開示加算とは、2026年度に新設される、非正規雇用労働者の雇用状況を企業が自主的に開示した場合に受けられる追加助成制度です。
具体的には、以下のような情報を自社のウェブサイト、統合報告書、有価証券報告書などで開示します。
• 非正規雇用労働者の人数
• 雇用形態(有期・無期、フルタイム・パートタイムなど)
• 処遇の状況(賃金水準、福利厚生など)
■なぜ情報開示が求められるのか?
国は「賃上げを起点とした成長型経済の実現」を目指しており、企業の透明性を高めることで、労働市場全体の処遇改善を促進しようとしています。非正規雇用労働者の実態を「見える化」することで、企業に処遇改善へのプレッシャーを与える狙いがあります。
■実務の現場では…
「情報開示」と聞くと大企業向けの制度に感じるかもしれませんが、中小企業でも自社サイトに簡単な雇用状況を掲載するだけで対象になる可能性があります。ただし、開示内容の具体的な基準はまだ明確ではないため、申請前に労働局に確認することをおすすめします。
【変更点2】賃上げ3%要件の継続(基本要件)
正社員転換後6ヶ月間の賃金が、転換前6ヶ月間の賃金と比較して3%以上増額していることが必須要件です。この要件を満たさなければ、基本の80万円(中小企業、有期→正規の場合)すら受給できません。
■なぜ3%なのか?
政府は「実質賃金の毎年1%上昇を2029年度までに定着」「最低賃金の全国平均1,500円を2020年代中に達成」という目標を掲げています。助成金の要件に「3%賃上げ」を組み込むことで、企業の賃上げ行動を後押ししているのです。
■実務上の落とし穴
ここで注意したいのが、「転換前6ヶ月」と「転換後6ヶ月」の賃金の比較方法です。
【よくある失敗例】※本事例はイメージです
• 転換前の時期に繁忙期があり、残業代が多く支給されていた
• 転換後は閑散期で残業が減り、結果的に3%増に届かなかった
• 月給制に変更したことで手当の計算方法が変わり、増額率が不足した
社労士の視点では、転換前後の賃金をシミュレーションし、確実に3%を超える給与設計をしておくことが不可欠です。基本給だけでなく、各種手当や賞与も含めた年収ベースで比較するケースもあるため、事前に労働局に確認しましょう。
【変更点3】賃金規定等改定コースの段階的支援(4〜7万円/人)
非正規雇用労働者の基本給を定める賃金規定を3%以上増額改定し、その規定を適用した場合、賃上げ幅に応じて段階的に助成されます。
■賃上げ幅別の助成額(中小企業)
• 3%以上4%未満:4万円/人
• 4%以上5%未満:5万円/人
• 5%以上6%未満:6.5万円/人
• 6%以上:7万円/人
上限人数は100人まで対象となるため、多くの非正規社員を抱える企業にとっては大きなメリットです。
■加算措置も活用しよう
さらに、以下の加算措置も用意されています。
• 「職務評価」を活用して実施した場合:20万円/事業所
• 昇給制度を新たに設けた場合:20万円/事業所
実務の現場では、正社員化と賃金規定等改定コースを組み合わせることで、助成金の受給額を最大化できます。たとえば、一部を正社員化(80万円×人数)し、残りの非正規社員には賃金規定改定(4〜7万円×人数)を適用するといった戦略が考えられます。
出典:厚生労働省『令和8年度予算案の概要(雇用環境・均等局)』(2026年1月20日)
「もらえない」を防ぐ!実務チェックリスト
キャリアアップ助成金は「後出しジャンケン」が一切認められません。事前準備が不十分だと、どんなに正社員化を進めても不支給になります。以下のチェックリストで確認しましょう。
□ 就業規則の整備(転換日の6ヶ月以上前)
正社員転換日よりも6ヶ月以上前に、要件を満たした就業規則が施行され、運用されている必要があります。
法律上、就業規則は作成・変更後「遅滞なく」労働基準監督署へ届け出ることとされていますが、キャリアアップ助成金のルールはさらに厳格です。従業員数が10人未満の事業所でも、就業規則の作成・届出が必須となります。
■就業規則に盛り込むべき内容
• 正社員転換制度の規定
• 転換の対象者、手続き、時期
• 賞与または退職金の制度(どちらか一方でも可)
• 昇給に関する規定
出典:厚生労働省『キャリアアップ助成金のご利用にあたって、特にご注意いただきたい事項について』
□ キャリアアップ計画の事前作成・提出
取組を実施する前に、管轄の労働局に「キャリアアップ計画」を届出し、チェックを受ける必要があります。
キャリアアップ計画には、対象者、目標、期間、取組内容などを記載します。計画内容に変更が生じた場合は、速やかに計画変更届を提出しましょう。
□ 賃上げ3%の給与設計
転換前後の賃金をシミュレーションし、確実に3%を超える設計にしておきます。繁忙期・閑散期の影響、手当の計算方法の変更なども考慮しましょう。
□ 雇用保険・社会保険の適用確認
対象労働者が雇用保険・社会保険に適切に加入しているか確認します。未加入の場合は不支給となります。
□ 労働関係法令の遵守
過去1年以内に労働関係法令違反(残業代未払い、最低賃金違反など)があると、助成金が受給できません。
□ 会社都合退職・解雇の発生確認
助成金の対象期間中に会社都合退職や解雇が発生すると、不支給となる可能性があります。
□ 申請期限の確認
正社員化コースの場合、正社員転換後6ヶ月の賃金を支給した日の翌日から2ヶ月以内が支給申請期限です。申請期間が意外と短いため、気がついたら期限を過ぎていた、という失敗も多く聞かれます。
まとめ:2026年度は「事前準備」がすべて
2026年度のキャリアアップ助成金は、「情報開示加算の新設」「賃上げ3%要件の継続」「賃金規定等改定コースの段階的支援」という3つの変更があります。
これらを踏まえて、確実に助成金を受給するためには、以下の4つが不可欠です。
1. 就業規則の整備(転換日の6ヶ月以上前)
2. キャリアアップ計画の事前作成・提出
3. 賃上げ3%の給与設計
4. 情報開示の準備
「後から知った」「要件を満たしていなかった」では、もらえるはずの80万円が不支給になってしまいます。社労士による制度設計サポートを活用することで、「もらえるはずが不支給」という事態を防ぎ、最大限の助成金を獲得できます。
2026年度に正社員化をお考えの経営者・管理職の皆さま、ぜひ早めの準備を始めてください。
【出典・参考資料】
• 厚生労働省『令和8年度予算案の概要(雇用環境・均等局)』(2026年1月20日)
• 厚生労働省『キャリアアップ助成金』公式サイト
• 厚生労働省『キャリアアップ助成金のご利用にあたって、特にご注意いただきたい事項について』
よくあるご質問
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Q
正社員化後、いつまでに賃金を3%上げる必要がありますか?
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A
正社員転換後6ヶ月間の賃金平均が、転換前6ヶ月間と比較して3%以上である必要があります。転換と同時に賃金が上がっていることが前提です。
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Q
就業規則の届出はいつまでに必要ですか?
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A
正社員転換日の6ヶ月以上前に就業規則を施行・届出している必要があります。「転換を決めてから急いで作る」では間に合いません。
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Q
情報開示加算とは何を開示すればいいのですか?
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A
非正規雇用労働者の人数、雇用形態、処遇の状況などを自社サイトや有価証券報告書等で開示することです。具体的な開示基準は労働局に確認しましょう。
